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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)15号 判決 1957年3月12日

原告 津島産業株式会社

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、特許庁が同庁昭和二十八年抗告審判第五七一号事件について昭和三十一年三月六日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は羅馬字で「Home」と横書し、その下に「ホーム」の文字を横書して成る商標につき商標法第五条に定めた類別第四類石鹸を指定商品として昭和二十三年十二月十三日に特許庁に登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、抗告審判の請求をし、同事件は特許庁昭和二十八年抗告審判第五七一号事件として審理された上昭和三十一年三月六日に右抗告審判の請求は成り立たない旨の審決がされ、その審決書謄本は同月二十日原告に送達された。

二、本件商標登録出願に対する右審査に於て、審査官から原告に対し登録第一九一〇六四号商標を引用し之と本願商標とが類似しているものとし、本願が商標法第二条第一項第九号により登録すべきでない旨の拒絶理由通知があつたので、調査の結果引用商標の現商標権者の権利取得が営業の移転と共に行われていない事実が判明したので、原告は引用商標の登録取消請求、及び右商標権譲渡無効確認訴訟を提起し、本願の審査官に対しては商標法第二十四条により準用される特許法第八十条に基き右請求に対する確定審決及び右訴訟に対する確定判決ある迄審理を中止され度い旨申し出たけれども、審査官は右確定審決及び確定判決を待たないで前記拒絶査定をしたのであり、原告は抗告審に於ても同様の申出をしたけれども抗告審も、

1  本願商標と引用商標とが類似し、且つその指定商品が互に抵触するものである。

2  引用登録商標の取消請求は抗告審判請求人がしたものでなく、その代理人なる松田喬自身がしたものであるから審理の中止をする必要がない。

との二理由を以て抗告審判請求人の主張を排斥した。

右理由1は形式的観点からすれば当然の結論であつて、それ故原告は引用商標に対する前記登録取消審判請求及び商標権譲渡無効確認訴訟を提起してその結論を待つているものに外ならない。

然しながら理由2につき前記引用商標の登録取消の確定審決、又は商標権譲渡無効確認の確定判決があれば、之により引用商標の登録が取り消されるべき立場にあるのであるから、之等事件の審決及び判決の確定するに至るまで本件商標登録出願に対する審理は之を中止するのが商標法第二十四条により準用される特許法第八十条の精神に適合するものである。然るに審決が右中止の申出を排斥したのは不当である。

三、よつて原告は審決の取消を求める為本訴に及んだ。と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告の請求原因事実中一の事実を認める。

商標法第二十四条により準用される特許法第八十条は任意的に裁量し得る事柄を定めたものであり、従つて之を以て本件商標登録出願の審査を当然中止しなければならない理由とすることはできない。而して引用登録商標に関する原告主張の商標権譲渡無効確認訴訟事件ではすでに同事件の原告の請求を排斥した一審判決に対する控訴を棄却する旨の控訴審の判決(乙第三号証)があつて、同事件は確定しており、又右商標登録取消審判事件では未確定ではあるが同請求を却下する旨の審決(乙第二号証)がされており、以上の経過に徴すれば本件商標登録出願に対する審理を中止する必要がないことが明らかである。而も引用登録商標は商標原簿に適法に記載されてあり、之と本願商標とは相類似し、且つその指定商品も互に抵触しているから、本件商標登録出願は商標法第二条第一項第九号により拒絶せられるべきことは当然であつて、本件審決の判断は正当であり、原告の本訴請求は失当であると述べた。

(立証省略)

理由

原告の請求原因事実中一の事実は被告の認めるところである。右の当事者間に争のない羅馬字で「Home」と又その下に片仮名で「ホーム」各横書して成る本願商標の構成を見れば、同商標の称呼が「ホーム」であり、その観念が「家庭」であることは明らかであり、又成立に争のない乙第一号証によれば引用登録商標は昭和二年六月四日に登録され昭和二十二年五月十四日に商標権存続期間更新の登録がされたものであつて、第四類石鹸を指定商品とし、角ゴシツク体で「ホーム」の三字を縦書して成るものであることが認められ、右の商標の構成に徴すればその称呼も「ホーム」、その観念も又「家庭」であることが明らかであり、従つて両商標はその称呼及び観念が同一であるから相類似しているものと言うべく、而もその指定商品が同一であるから、本件商標登録出願当時すでに引用商標の登録が存在していた以上本件商標登録出願は許すべからざるものとしなければならない。

原告は引用登録商標の現商標権者の権利取得が営業の移転と共に行われていないことを理由としてその登録取消審判請求及び商標権譲渡無効確認訴訟を提起し、本件商標登録出願の審査に於ても又抗告審に於ても右審判請求に対する確定の審決、右訴訟に対する確定の判決あるまで審理を中止され度い旨申し出たところ之を拒否したのは商標法第二十四条により準用される特許法第八十条の精神に反するものであつて不当である旨抗争するけれども、審判又は抗告審判における手続の中止に関する特許法第百十八条及び之を審査の場合に準用する同法第八十条の規定は必要あるときは民事又は刑事の訴訟手続の完結に至るまで手続を中止することを得る旨規定したに止まり、その特許に関する民事又は刑事の訴訟のある場合に必ず手続を中止しなければならないものと規定したものではなく、右中止はその必要ある場合に限り、而も之に従つて手続を中止すると否とはその審判又は審査に当る審判官又は審査官の自由裁量に委ねた趣旨であることは同法条の文理上明らかであり、尚本件にあらわれたすべての資料によつても前記登録取消審判請求又は訴訟事件の完結に至るまで本件商標登録出願に対する審査又は抗告審判の審理を中止することを必要とすることを認めるに足りない(右登録取消審判請求及び訴訟が提起されたこと自体は右中止を必要とする事情となり得ないこと勿論である)。然らば審決が原告の右中止の申出を排斥したのは別段不当の措置と認め難く右に反する原告の右主張は到底これを認容することができない。

よつて本件商標登録出願を排斥した審決を相当とし、その取消を求める原告の本訴請求を失当とし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

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